2030年までに関連ガイドラインを整備し、超高精度CFD技術(LES)を活用した世界初のEEDI認証の実現に向けて
1.本共同研究の目的
- 船舶海洋分野の設計プロセスで数値流体力学(CFD: Computational Fluid Dynamics)が活用され始めてから、既に30年近くが経とうとしています。この間、コンピュータの性能は、10年で千倍、20年で百万倍という驚異的スピードで向上してきました。今後も設計DX(Digital Transformation)と相性の良いCFDの活用範囲がますます広がってくると考えられています。一般財団法人日本造船技術センター(SRC)では、2011年から東京大学と共同でスーパーコンピュータを使った超高精度CFD技術であるLES(Large Eddy Simulation)の開発に取り組んでいます。(注1)
- このような中、「性能認証」の世界でもCFDの活用が始まっています。一般財団法人日本造船技術センターと一般財団法人日本海事協会(ClassNK)では、本年からCFDのさらなる社会実装を目指して共同研究を開始しました。
- 国際海事機関(IMO)における国際海運分野の温室効果ガス排出規制として、新造船に求められるエネルギー効率設計指標(EEDI)では、汎用CFD技術であるRANS法(Reynolds averaged Navier Stokes)の限定活用は認められているものの、水槽試験の完全な代替には至っておりません。共同研究では、EEDI認証で要求される水槽試験の完全な代替としてLESが活用できる環境整備に取り組みます。世界初の画期的な研究開発となります。
- 2025年11月17日から19日にオランダのワーゲニンゲンで開催されたCFDワークショップにおいて、500億要素を用いた船体周りの大規模LES解析結果を提出し、その高い精度が評価されました。特に、抵抗値や流場の予測は水槽試験の計測誤差に匹敵する精度を示し、一部の解析結果については水槽試験よりも信頼性が高い可能性が指摘されました。(注2)
- 共同研究により、2030年までに関連ガイドラインを整備し、LESを活用した世界初のEEDI認証の実現を目指します。
超高精度CFD技術であるLES(Large Eddy Simulation)による解析(注3)
(RANS解析では難しかったプロペラ渦ではない船型からの渦輪の発生の可視化)
CFD ワークショップでの発表
(注1)現在、活用されているCFD技術であるRANS(Reynolds-Averaged Navier-Stokes)は、乱流を平均化して扱うことで、数百万〜数千万要素程度の比較的軽い計算で船体まわりの流れを予測する手法です。一方、超高精度CFD技術であるLES(Large Eddy Simulation)は、乱流の微小な渦構造まで直接解像する手法のため、数百億要素程度の大規模計算が必要になりますが、その分、流れ場や抵抗の予測精度は大きく向上します。
(注2)CFDワークショップ「Wageningen 2025」
(注3)船体周りの渦を速度で色付けして可視化しています。LES解析により、これまでのRANS解析では難しかった乱流の微細な渦や、船尾に特徴的な渦輪(プロペラ渦ではない船型からの渦輪)の発生している様子が観察できます。
2.CFD社会実装のための共同研究情報
- 本共同研究を含むCFD社会実装のための共同研究に関する情報は、「SRC News」の117 2025 12月号」でご覧になれます。
①燃費性能改善サービスの環境整備(ESD)
②CFD技術活用の環境整備(EEDI)
③船級承認でのCFD技術活用の環境整備(ガス拡散シミュレーション)
※「SRC News」
https://www.srcj.or.jp/introduction/publication
【本件に関する問い合わせ先】
一般財団法人日本造船技術センター
技術開発部
西川(にしかわ)・美濃部(みのべ)
TEL:0422-40-2824、E-mail:info@srcj.or.jp
一般財団法人日本海事協会
広報室
TEL:03-5226-2047、E-mail:eod@classnk.or.jp



